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逆さの十字架

【内容】
「忌まわしい偽善の律法学者、ファリサイ人たち! このマムシのすえどもめ!!」アルゼンチン軍事独裁政権下で警察権力の暴虐と教会の硬直化を激しく批判して発禁処分、しかしスペインでラテンアメリカ出身作家として初めてプラネータ賞を受賞。欧州・南米を震撼させた、アルゼンチン現代文学の巨人マルコス・アギニスのデビュー作にして最大のベストセラー、待望の邦訳!
 トーレスはひと呼吸置いた。その口元にシニカルな笑みが浮かんでいる。
「神はひとり子をどんな家に誕生させましたか? 名門の人間とばかり交流し、金のかかるスポーツを楽しみ、毎晩のように夜会を催し、金の馬車で会堂に乗りつけ、召使に至れり尽くせり面倒を見てもらうような家ですか? 成長したら成長したで、上流階級の教養豊かな人たちばかりとつき合うようになる家だったでしょうか?」
 神父の問いかけに、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「キリストは弟子たちをいかに扱いましたか? 高官用のシルクの紫衣で着飾らせ、威厳を添えるべくサファイアの指輪を与えたでしょうか? エルサレムにはどのように入城しましたか? じゅうたんが敷き詰められ、護衛に囲まれた通りを、輿に乗って行進したでしょうか? 自分の死を予期していたイエスは、前もってどんな指示を出しましたか? わざわざ豪奢な霊廟を用意し、盛大な葬儀をするよう命じたでしょうか?」
 会衆のほとんどが神父の話に心酔し、啓示でも受けたように喜びにきらめいていた。
「そんなキリストであったなら」神父は続ける。「悪趣味極まりない。しかし、何世紀ものあいだ、キリスト教徒が模倣してきたのはそんなキリスト像でした。まるで、キリストが非難していたファリサイ派を地で行くような生き方しかしてきませんでした」(本書より)

【著者紹介】
マルコス・アギニス(Marcos Aguinis) 1935年アルゼンチン生まれ。作家、神経外科医、精神分析家。音楽、歴史、芸術にも精通。小説、随筆、伝記など30作以上を出版。軍事政権時代に発禁処分となった本書『逆さの十字架』は大ベストセラーとなり、南米の作家として初のスペイン・プラネッタ(プラネータ)賞を獲得。著作は世界各国に翻訳されている。アルゼンチン作家協会名誉賞、ブエノスアイレス賞、ラ・プラタ大学改革賞、フランス文化芸術功労勲章、シュヴァリエ賞などを受賞。アルゼンチン文化長官としてユネスコや国連の支援による民主化プログラムを実施、ユネスコ平和教育賞候補にノミネート。現在はブエノスアイレスの有力新聞「ラ・ナシオン」紙をはじめ、南米、欧州の様々な新聞、雑誌に寄稿、世界中で教育、芸術、科学、政治学についての講演もおこなう。2002年、テルアビブ大学名誉博士号。04年コロンビアで開催された「民主主義の発展とテロリズムに関する会合」に招待。05〜06年ワシントン滞在、ボストン大学で講義をおこなった。
八重樫克彦(やえがし・かつひこ)1968年岩手県生まれ。ラテン音楽との出会いをきっかけに、長年、中南米やスペインで暮らし、語学・音楽・文学などを学ぶ。現在は翻訳業に従事。訳書に『音楽家のための身体コンディショニング』(音楽之友社)、マリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』、悪い娘の悪戯』、マルコス・アギニス『マラーノの武勲』、『天啓を受けた者ども』、エベリオ・ロセーロ『顔のない軍隊』、『無慈悲な昼食』(以上作品社)、『御者〈エル・コチェーロ〉』(新曜社、すべて八重樫由貴子と共訳)。
八重樫由貴子(やえがし・ゆきこ)1967年奈良県生まれ。横浜国立大学教育学部卒。12年の教員生活を経て、夫・克彦とともに翻訳業に従事。

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