迷子たちの街

パトリック・モディアノ
平中悠一訳
本体1,900円
46判上製
ISBN978-4-86182-551-4
発行2015.9
【内容】
さよなら、パリ。ほんとうに愛したただひとりの女……。
2014年ノーベル文学賞に輝く《記憶の芸術家》パトリック・モディアノ、魂の叫び!
ミステリ作家の「僕」が訪れた20年ぶりの故郷・パリに、封印された過去。
息詰まる暑さの街に《亡霊たち》とのデッドヒートが今はじまる――。
彼女は僕の肩にもたれて眠りに落ちた。そして僕もまた、少しずつ、睡気に襲われていた。でも僕はさらに長い間、目を開き、その軽い息を聞いていた。僕は頬を彼女の髪に押し当てた。夢を見ているわけじゃない、そう確信するために。キャンドルはまだ燃えていて僕は消すべきだろうかと考えた。ガラス戸のひとつから、空気の流れがパリのざわめきを運んでいた。外の庭の柵の向こうには、アルマ広場とカフェのテラス。あそこで僕は待っていた。午後中、当てもなく歩いたあとで。僕はこの街とひとつになっていた。僕は木々の葉叢だった。舗道の上の雨の照り返す光だった。低いうねりのような人々の声、通りの百万もの塵のうち、そのまたひとつの塵だった。(本書より)
【著訳者略歴】
パトリック・モディアノ(Patrick Modiano)
1968年、La place de l'etoile でデビュー。1978年、ゴンクール賞(Rue des boutiques obscures)、1996年、フランス文学大賞(全作品)等々。2014年、ノーベル文学賞。「その記憶の芸術で、彼は人間のもっとも捉え難い運命の全てを呼び起こし、またナチス占領期の世界を明るみに出した」と評価される。邦訳に『パリ環状通り』(講談社)、『暗いブティック通り』(講談社/白水社)、『ある青春』(白水社)、『カトリーヌとパパ』(講談社)、『イヴォンヌの香り』(集英社)、『サーカスが通る』(集英社)、『いやなことは後まわし』(パロル舎/キノブックス)、『1941年。パリの尋ね人』(作品社)、『廃虚に咲く花』(パロル舎/キノブックス)、『八月の日曜日』(水声社)、『さびしい宝石』(作品社)、『失われた時のカフェで』(作品社)等。1945年、オー‐ド‐セーヌ県、パリ西部に隣接するブローニュ‐ビヤンクール生まれ。
平中悠一(Yuichi Hiranaka)
1984年、『She's Rain』で第21回文藝賞を受賞、デビュー。訳書にパトリック・モディアノ『失われた時のカフェで』(作品社)、著書に『アイム・イン・ブルー』(幻冬舎)、『僕とみづきとせつない宇宙』(河出書房新社)、『ミラノの犬、バルセローナの猫』(作品社)等。1965年生まれ。パリ大学修士課程修了。