サリーのすべて

アルノ・ガイガー
渡辺一男訳
本体2,600円
46判上製
ISBN 978-4-86182-532-3
発行 2015.5
【内容】
平穏の象徴であるわが家の、空き巣による徹底的な破壊とともに、砂の城のごとく音もなく崩れはじめる、30年間の夫婦生活。一陣の風に吹かれる木の葉のようなふたりは、いったいどこに漂着するのか。
現代オーストリア文学を代表する気鋭作家による、傑作長篇小説!
「あなたたちのところに空き巣が入ったのよ」とナジャは言った。サリーの亀の世話をし、花に水をやると言ってくれていた友人だった。ナジャは彼女流の直接的なやり方で知らせてくれたわけで、これは彼女の夫のエーリクには不可能だったであろう。おそらくそのために、電話連絡をする役目はナジャに委ねられたのだ。
サリーはと言えば、まるでストップモーションの最中に別人になったような心持ちだった、なお一瞬は落胆することなく。過ぎ去った一学年、ウィーン、家族、アルフレート、これらがみな消え去って、一陣の風が突如それらをまた吹き寄せた。その風にサリーは鳥肌が立った。(本書より)
アルノ・ガイガー(Arno Geiger)
1968年、オーストリア西部のフォアアールベルク州のブレゲンツに生まれる。1987年からインスブルック大学で、1990年から1993年までウィーン大学でドイツ文学、古代史、比較文学を専攻し、1993年から作家活動を開始。1997年、『メリーゴーランドの小レッスン』Kleine Schule des Karusselfahrensを刊行。1999年に『鬼火燃えて』Irrlichterloh、2002年に『すてきな友人たち』Schone Freundeが刊行され、批評家の間で知名度が高まる。2005年、『わたしたちは元気』Es geht uns gutで第1回ドイツ書籍賞を、2008年短篇集『アンナを忘れないこと』Anna nicht vergessenでヨーハン・ペーター・ヘーベル賞を受賞。2011年にはその全活動に対してフリードリヒ・ヘルダーリン賞およびコンラート・アデナウアー財団文学賞が授与された。最新作は、2015年2月刊行の『カバのいる自画像』Selbstportrat mit Flusspferd。邦訳に、『老王の家――アルツハイマー病の父と私』(原題は『流謫の老王』Der alte Konig in seinem Exil、渡辺一男訳、新日本出版社)。
渡辺一男(わたなべ・かずお)
1946年生まれ。翻訳家。東京都立大学大学院博士課程中退(ドイツ文学専攻)。オーストリア在住。著書に、『オーストリア日記』(現代書館)、訳書に『老王の家』(新日本出版社)、『出口のない夢』、『資本主義黒書』(全2巻、以上新曜社)、『すべての人にベーシック・インカムを』、『ベーシック・インカム』(共訳、以上現代書館)、『私物化される世界』、『独裁者の妻たち』、『なぜそんなに痩せたいの?』、『ヒトラーをめぐる女たち』(以上阪急コミュニケーションズ)など。