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岬 附・東京災難画信

【内容】
「どうぞ心配しないで下さい、私はもう心を決めましたから」

天才と呼ばれた美術学校生と、そのモデルを務めた少女の悲恋。
大正ロマンの旗手による長編小説を、表題作の連載中断期に綴った
関東大震災の貴重な記録とあわせ、初単行本化。挿絵97枚収録。
解説:末國善己

 葉山はお幹を帰してから、長椅子に腰かけ一つ所を見詰(みつめ)ながら、坐っていた。葉山は若い娘の泣くのをはじめて見た。洪水のような彼女の涙に誘われて一所に押流されそうだった自分を、危く踏止(ふみとど)まった、生れて始めての経験について自分を省みた。(…)
 それにしても、彼女が画室を出る時「私もう決心しています」と言った言葉を、葉山はふと思い出した。
「お幹は死ぬかも知れない、それはもう理窟ではない、これは放ってはおけない」そう思いつくと、葉山は弾かれたように椅子から飛上がって、そこそこに着物を着換(きがえ)て外へ飛出した。お幹が、彼から遠く遠く去って行ったであろう路を歩きながら、彼は非常に感傷的(センチメンタル)になって路を急いだ。(本書より)

【著者・解説者略歴】
竹久夢二(たけひさ・ゆめじ)
画家・詩人・デザイナー・作家。1884年岡山県生まれ(本名・茂次郎)。1901年に上京し、翌年、早稲田実業学校に入学。1905年、平民社の機関誌「直言」にコマ絵を発表、その後「平民新聞」にも絵や文章を発表する。翌年には「東京日日新聞」、「女学世界」、「文章世界」などからも依頼を受けるようになり、早稲田実業学校を中退。1909年に初の画集『夢二画集 春の巻』(洛陽堂)を刊行。1914年、日本橋に自身がデザインした小物などを売る「港屋」を開業。以降、画家、詩人、グラフィックデザイナー、翻訳家、小説家として幅広い活躍を続ける。1931年から33年にかけて欧米各国を訪問。1934年、49 歳で逝去。小説作品に、「岬」(1923)、「秘薬紫雪」(1924)、「風のように」(同)、「出帆」(1927)などがある。

末國善己(すえくに・よしみ)
文芸評論家。1968年広島県生まれ。編書に『国枝史郎探偵小説全集』、『国枝史郎歴史小説傑作選』、『国枝史郎伝奇短篇小説集成』(全二巻)、『国枝史郎伝奇浪漫小説集成』、『国枝史郎伝奇風俗/怪奇小説集成』、『野村胡堂探偵小説全集』、『野村胡堂伝奇幻想小説集成』、『山本周五郎探偵小説全集』(全六巻+別巻一)、『探偵奇譚 呉田博士《完全版》』、『《完全版》新諸国物語』(全二巻)、『岡本綺堂探偵小説全集』(全二巻)、『戦国女人十一話』、『短篇小説集 軍師の生きざま』、『短篇小説集 軍師の死にざま』、『小説集 黒田官兵衛』、『小説集 竹中半兵衛』、『小説集 真田幸村』(以上作品社)などがある。